佐藤小夜子 DANCE LABORATORY 公演『ダンス日記Vol.4 -ねばネバNeighbor-』
2012年11月4日 バレエスタジオ M deux
<批評>
佐藤小夜子DANCE LABORATORYによるスタジオパフォーマンス《ダンス日記vol.4》が行われた。《ダンス日記》は2006年に始まり、2010年の第2回『笑顔の法則』、2011年の第3回『walk』と続き、今回は『ねばネバNeighbor』。 勇壮なマーチが響くと、銀色の筒の行列がそろそろと登場してくる。マットを巻いて円筒状にした中に、神原ゆかり、古井慎也、中島由紀子、川本知枝(川口節子バレエ団所属)、モダンの佐藤、古井の5人のダンサーが入り、中で足を小刻みに動かしながら移動しているのだ。赤阪正敏のエレキギター演奏によるライブ感に鼓舞されて、個々のダンス・シーンへ。バレエ畑の神原と川本、演劇畑の中島、モダンダンスの佐藤と古井が、振付の枠を厳格に守りながら、それぞれに個性を競うのだ。マットを筒状にしたり広げたりと使い分けての場面転換は、ダンサーの動きを制限すると同時に適度なリズム感を生みだす効果があった。佐藤の振付は、常にさらりとした展開が特長で、深刻な色合いを帯びることはあまりない。しかし軽く作っているわけではない。むしろどこまでも真面目にひとつひとつの動きを吟味して、ダンサーの独走を許さない。その振付とダンサーの個性が衝突するところにえもいわれぬおもしろさが現われるのだ。このスタジオにおけるパフォーマンスは照明の効果をいっさい使わないので、観客にとっては日常的な感覚の延長線上に、とつぜんダンスが現われることになる。それをあっさり非日常の世界へ連れ込んだ振付者、佐藤小夜子の手腕はかなりのものと言える。 後半は、事前に観客に描いてもらっていた絵を材料にしての踊りとなった。このゲーム的な感覚に引き込まれた観客は、自身もその場の参加者としてダンスを楽しみ、晴れやかな笑顔でスタジオを後にした。 (山野博大 2012年11月4日/名古屋、バレエスタジオ M deux 『The Dance Times』http://www.dance-times.com/ より) ----- ダンス日記も三回目を迎え、今回は演者の個性を活かしたダンス表現が印象的でした。“生きることは歩くこと、歩くことは生きること”というアグレッシブなテーマを象徴するダンス日記でした。第一部は、集団パフォーマンスで、周囲を巻き込みながら生きる人、ジムに通いながら健康管理にいそしむ人、身だしなみとして化粧に懸命な人など、…ごく普通の日常の生活がテンポ良く表出されました。変わって次に独演で、安藤可織さんのやるせなさと虚しさ、中島由紀子さんの大衆の中の孤独、古井慎也さんのボクシングで悪に立ち向かう勇気、高野由美子さんの王子様が気に入るのはどの衣裳かと迷う女心、神原ゆかりさんと佐藤小夜子さんとの白鳥になりたかった女と白鳥にはとてもなれないと諦めていた女との対比、それぞれ楽しませていただきました。第二部は観客の七つのリクエストに応える即興ダンス、“母のお腹にいた頃、宇宙の果てから親友の恋人を奪った”の中に、小生の一句があり、嬉しくなりました。 (河野光雄 名古屋演劇ペンクラブ理事) ----- 佐藤小夜子は名古屋で活躍するアーティストだ。粘り強い創作活動には定評がある。 スペースに円柱状の謎のオブジェたちが走りでてくる。中に人が入っているこれらの物体が左右に走り回ると、やがて全員がマットを携えて現れる。心温まる舞台のはじまりだ。 まず演者たちがそれぞれソロを披露する。チャーミングな川本知枝(川口節子バレエ団)が円柱状の美術を背景に裸足で踊っていく。ムーブメントから結果としてマイムのような感覚が上演空間に広がっていくと、続いてロールに包まるような姿で神原ゆかりが登場する。この地で幅広く活動するポピュラーな名ダンサーであり、バレエ出身の才能らしくエレガントに舞い、モダンバレエを披露していく。すると今度は演劇で活躍をしている女優の中島由紀子が演歌をバックにコミカルなパフォーマンスを仕掛けた。 一転し、佐藤と古井慎也が生活風景を非日常へ変換していく。マットを敷くとテレビをみるように床に横たわる。男は一人になると童謡「おもちゃのチャチャチャ」と共に子供時代の現風景を綴ってみせた。雰囲気が変わるようにポップスが鳴り響くと出演者一同がマットの上でポーズを切り替えていく。シンプルな動きの向こうに創作への挑戦を感じさせた前半の締めくくりとなった。 2部では最初に観客に絵を描かせるとそれらを良く見えるように舞台背景に展示していく。そして絵をダンスにしていくというギターの赤阪正敏と表現者たちの即興大会がスタートする。佐藤はゲームのように、ダンサーに踊ってもらいたいテーマを切り替えていく。人気アニメキャラクターから鳥のポンチ絵、不思議な記号、わざと身体表現しにくいイメージを彼女は選ぶ。すると芸術家たちも期待に応えよるように自身の持ち味や解釈を加え盛り上げる。そんな彼らの世界に観客たちはそれぞれ拍手や声援を送り会場全体が大きく沸いた。 フィジカルシアターに近い作風と実演家たちの中のフィーリングが生みだした絶妙なステージだ。佐藤の作品には人生に対するユーモアや愛を大切にした語り口が必ず入るが、いつものシアター作品と違う仕上がりであり、文字通り子どもから大人までトータルに楽しむことができるものなった。作家は様々なタイプの創作作品でしっかりした評価を受けてきた。グローバル化の中で日本の舞踊界も国内外に多極的なネットワークを張り巡らせながら発達しようとしている。アクセスしやすく芸能が盛んな中京という地域を代表する注目の舞踊家の将来が楽しみだ。 (吉田悠樹彦/出典:トーキングヘッズ叢書 No.54(アトリエサード)より) ----- スタジオ公演に意外な発見 ゲーム感覚にあふれる独自のステージを展開する佐藤小夜子が、スタジオパフォーマンス「ねばネバNeighbor」を開いた(11月4日・スタジオMdeux) 5人の出演者が、1畳ほどのマットを抱えて登場する。そのマットが彼らのテリトリーらしい。時にマットは目隠しになり、個人の生活をのぞき見る望遠鏡になる。 近すぎればうっとうしいが、遠すぎれば物足りない。他人であれ、肉親であれ、人と人との距離感は微妙だ。佐藤は「ダンスは生活であり、生活そのものがダンスである」とし、コミカルな演出と振り付けで生活とダンスの境目を取り払おうとしているようだ。 鏡に囲まれたスタジオでのパフォーマンスに意外な発見があった。1つは演者の背面が見えること。そしてダンサーとともに観客自身も鏡に映ること。つまり演じる者と見る者とが2次元世界で一体化する面白さだ。 見る度に新たに収穫があり、次回への期待がふくらむ。興味の尽きぬ佐藤のパフォーマンスである。 (上野茂 ナゴヤ劇場ジャーナル 2012年12月号 より)