第27回 現代舞踊フェスティバル 『足並みそろえて』
2006年8月30日 新国立劇場 中劇場
<批評>
今日性とコンテンポラリーらしい元気印が、ストレートに観客の興味を引きつけた。幕が上がるとホリゾントに並べられた赤白デザインの無数の福袋。ハテナと思うまもなく、その影からウインナー・ワルツやマーチのポップ曲をバックに、次々パフォーマーたちが飛び出しての乱舞。紙袋という特異な小道具を生かしながら、さまざまな形の人体造型がフロアいっぱいに飛び交い行き違う。「横並び好きの日本人」という主題の説明は、いささか言葉遊びのコジツケにしても、この振付・演出家の才能は、昨年の「ほとばしる汗」に続いて、なかなかに捨てがたいユニークなものがある。造形感覚、ユーモアのセンス、間の取り方。欲を言えば踊る連中の動きに、いまひとつ鍛え抜かれ、コントロールされた身体意識さえ備わっていれば、あとはほぼ間然することのない個性溢れる作品の、コンテンポラリー・モードの1サンプルだった。 (日下四郎 舞踊評論家/日下四郎のダンスパーラー 見たままダンスノートより) 佐藤小夜子(愛知県)『足並みそろえて』も12人と多いが、この日の出品中、一番芝居がかりで(現に俳優も参加)、物語もあり唯一コミカルでユニークだった。「横並び意識が強いといわれる日本人の性向を、期間限定の商品である福袋をモチーフに表現した」と言う。舞台奥に、それこそ横一列に赤い福袋が隙間なくびっしり並ぶ。シュトラウスのワルツ「ウィーンの森の物語」に乗って一列縦隊、渋滞なく買い物客が登場。不思議や、福袋も生ある者のごとく勝手にもこもこ前進を始め、飛び上がったり、でんぐり返ったりも。やっとそれを操っていた人間がごそごそ顔を出して客席は苦笑。一転勇壮なマーチになると、正直なものだ、列も心も乱れて我先にと福袋の奪い合い。これが本音か。日本人の横一列好きは確かに見た目、協調性の象徴で美徳だろうが、こんなジョークもある。豪華客船が沈み出し、乗客たちを海に飛び込ませるために、船長が外国人乗客に言った。アメリカ人には「飛び込めばあなたは英雄ですよ」。日本人には「みんな飛び込んでますよ」。 長いものには巻かれろ、物言えば唇寒し。実社会でも右顧左眄して周囲と足並み揃える人だけが求められるのか。自分に正直に生きなくて、それがまっとうな人生なのか。そんな問いかけにも見える。 (木村英二 舞踊評論家/音楽舞踊新聞 2006年10月1日号掲載より引用) 群舞のおもしろさを見せてくれたのは、佐藤小夜子の『足並みそろえて』と(中略)。無数の福袋を奇想天外な使い方でダンスと融合させ、したたかな庶民の活力を舞台にあふれさせた。 (山野博大 舞踊評論家/週刊オン★ステージ新聞 2006年9月22日号掲載より引用)